Z マウントシリーズ最高峰の「S-LINE」
Nikon Z マウントシリーズのレンズには通常の「Zレンズ」とは差別化され、独自の設計指針と品質管理をさらに厳格化した「S-Line」と呼ばれる上位シリーズのレンズがあり、頭文字は「優れた(Superior)」、「特別な(Special)」、「精緻な(Sophisticated)」という意味が込められ、その製品名の末尾に「S」の名を冠している。
NIKKOR Z レンズ
https://www.nikon.co.jp/technology/design/works/nikkor_z_lenses.htm
大変光栄なことに「S-Line」の中でも発表当初より大きな注目を集めていたレンズ、「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」をお借りすることができた。しがないフリーランスでありつつも、一応カメラ、写真、映像といったジャンルに生息している身として、このレンズの良さを伝えられたら幸いだ。
NIKKOR Z 50mm f/1.2 S
https://www.nikon-image.com/products/nikkor/zmount/nikkor_z_50mm_f12_s/
それもそのはず、レンズ構成はなんと15群17枚で、軸上色収差を軽減するEDレンズや焦点のズレや象の歪みを防止する非球面レンズ、最終的にそれらを前後凹レンズで挟み込む。大口径となったZ マウントのメリットを最大限に引き出し、美味しいところをすべて詰め込んだ夢のようなレンズなのだ。たくさん詰め込んだら大きくなってしまった、そういうものなのだ。
光学性能に妥協しない「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は、開放時の中心付近コントラストと解像度が高く抜けが良い。コントラストに関しては全域で高い性能を持っていることが分かる。多くのレンズがそうであるように、周辺では同心円方向に像が流れる傾向だが、実際に撮影してみれば隅から隅まで高い解像力を保持している。後ほど作例を見ていただきたい。
![](https://fotografika.jp/wp-content/uploads/2021/10/NIKKOR-Z-50mm-f1.2-S-Lens.jpg)
![](https://fotografika.jp/wp-content/uploads/2021/10/NIKKOR-Z-50mm-mtf.jpg)
高画素フルサイズミラーレス「Z 7II」
今回のメインは「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」だが、まさかの高画素フルサイズミラーレス「Z 7II」も同時にお借りすることができた。さらに「パワーバッテリーパックMB-N11」や関連する周辺機材も一緒にどうぞという、仏みたいな対応をされて私は完全に語彙力を失いつつあった。
所有する「Z 7」で「Z 7II」を撮影する、なんとも不思議な感覚にとらわれながらも実際に比較してみると、しっかりとホールドできるこのサイズ感に違いは無く、それらはスイッチやダイヤルの形状と位置も同様に「Z 7」を踏襲した設計となっている。
スペックで要注目なのは、画像処理エンジン「EXPEED 6」を2つ搭載することで、連写速度と連続連写可能枚数が向上、動画撮影は4K(3840×2160)60pの記録が可能になり、ストレージがダブルスロットに対応している。
Z 7II
Z 7
有効画素数
4575万画素
4575万画素
画像処理エンジン
EXPEED 6*2
EXPEED 6*2
ボディ手ブレ補正
イメージセンサーシフト方式5軸
イメージセンサーシフト方式5軸
画質モード
RAW 12ビット/14ビット
RAW 12ビット/14ビット
スロット数
2
1
記録媒体
SDメモリーカード
XQDカード
CFexpressカード(Type B)
XQDカード
CFexpressカード(Type B)
ファインダー
0.5型 Quad-VGA OLED
約369万ドット
0.5型 Quad-VGA OLED
約369万ドット
連続撮影速度
約10コマ/秒
約9コマ/秒
連続連射撮影
最大77コマ
約23コマ
AF検出範囲
-3~19 EV
-2*~ 19EV
フォーカスポイント
493点
493点
動画
3840×2160(4K UHD) 60p/50p/30p/25p/24p
3840×2160(4K UHD)
30p/25p/24p
最長記録時間
29分59秒
29分59秒
モニター
チルト式3.2型TFT液晶
約210万ドット
チルト式3.2型TFT液晶
約210万ドット
私が個人的に確認するスペックで、そこからさらに一部を抜粋した比較表にはなってしまうが、こうして見比べると「Z 7」をブラッシュアップした上位モデルであることがよくわかる。
搭載される撮像素子は、両モデル共に同様の35.9×23.9mmサイズのCMOSセンサーであることから、同じ条件なら画質に差は無いはずだ。強化されたのは撮影に至るまでのアプローチで、よりユーザーの意図通りに扱うことができるようになったと言えるだろう。
「Z 7II」は最新モデルでありながら、形状、メニュー、挙動を変えることなくスペックを向上させることで、今までと変わらない感覚で安心して使うことができる。撮影日前日に慌ててマニュアルに目を通す必要もない。
しかもこのお借りした「Z 7II」は、12bit RAW動画出力が解除されている。10bit N-Logよりもさらに豊富な情報量を持ち、自由度の高いカラーグレーディングと耐性を兼ね備えている。
また「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は、ピント位置が手前から奥へ大きく移動する際などに画角が変化する「フォーカスブリージング」が抑制されており、プロフェッショナル向けのシネマレンズ同様に思い通りの演出が可能だ。
「NINJA V」も所有しているので高画質なグレーディングも試したいところではあったが、リグはどうしようとか、ビデオ三脚の雲台の調子が悪い等々悩んでいたら返却期限を迎えてしまい無念の極み。
開放f1.2が切り取る世界
私のスケジュールとわがままに合わせていただき、サンプルをお借りしたのは4月初旬。こうして写真を掲載しているのが6月なので、丸々2か月も時間が掛かってしまいました。
前日に大雨が降っていたため、カメラのコンディションも考えて撮影日を改めようかと考えていたが、翌日は雲ひとつない快晴で気温も上昇するとのことで、意を決して朝露に濡れた桜を撮影。
花びらから今にも滴りそうな雫は、文字通りとろけそうで、それでいて背景の空までも透き通って見えてしまいそうな一枚。
中央の花びらから、その奥の枝へとなめらかな快調でボケていく、これまでに経験したことのないような画質に私自身思わずため息が漏れてしまいました。「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」だからこそなせる特別な世界である。
グッとシャッタースピードを上げて陰影を強めても、開放f1.2の極めて浅い被写界深度では、ピントからアウトフォーカスへの変遷は限りなくシームレスで境界は存在しない。
よりシャープネスを追求するならばf2程度まで絞ると輪郭が強化される印象だが、「絞るなんて勿体ない」と思わせる圧倒的な開放画質に魅了されたため、すべて開放f1.2でお送りいたします。
きちんとした玉ボケの作例を撮れていないのが残念だが、不快なにじみや偽色は無くとてもなめらかで、玉ボケだらけの写真を撮っても背景が鬱陶しいと感じることは無いだろう。ただし周辺では玉が少し歪む印象がある。
壁のデザインが寸分違わず水平垂直なのかどうかはさておき、歪みはほとんど感じられませんでした。線対称を追求したNikonの光学設計と非球面レンズによって、あるべき姿を正しく正確に切り取ることができる。
シャッターを切るときに感じたことは高いAF精度と合焦までの速さだ。これは部屋の正面にあるデスクライトあたりに狙いを定めたショットで、合焦できずに暗部を彷徨ってしまうか、外の明るい建物にフォーカスしてしまうことが多い明暗差の激しいシーンでも精度は非常に高い。
これだけレンズ枚数が多く重量もあるのだから、フォーカスはやや鈍足かもしれないと勝手に思っていたが、そんな様子は微塵もない高速な動作で瞬時にすべてが被写体となる。
先ほど同様に明暗差があるシーンだが、影が落ちるグレーの床でも、黒いベンチでも、シルバーの手すりでも、精度の高いAFは迷うことなく狙った場所を確実に捉える。
スっと静かに合焦する一連の動作はとにかくストレスフリーで気持ちが良い。自分が撮りたいと思った構図と設定で即座にシャッターが切れる、単純でありながら突き詰めると難しい問題も、「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」と「Z 7II」の組み合わせにとっては些細なことかもしれない。
静かに揺れるオオアラセイトウ。f1.2の被写界深度は、風でわずかに揺れる花びらのエッジを限りなく薄く捉える。
周辺減光が有るか無いか?と聞かれたら「気にならない」と答えるだろう。それよりも開放f1.2でありながら輪郭やボケ部分に色収差やフリンジといった現象は見受けられず、その光学性能と画質の高さにただただ驚くばかりだ。
「S-Line」が実現する至高のエクスペリエンス
価格を考えれば万人向けのレンズでは無いものの、そのレンズ性能は納得以外の何物でもない。最高の50mm単焦点選べと言われたら、私は間違えなくこれを手にする。大口径なZ マウントの対称型を追求したレンズ構成で、極めて収差を抑えた「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」は、絞って画質を安定させるといった儀式をすっ飛ばし、どんな状況でも開放f1.2で躊躇なくシャッターを切れる実力と安心感、狙った瞬間を逃さない高精度かつ高速AFは一度使ったら忘れることはできない。新次元の光学性能をコンセプトに開発された「Z マウントシステム」と、厳格化され高い基準を満たす「S-Line」が実現する至高のエクスペリエンスだ。
一般的な50mmレンズと比較すると、そのサイズや重さはネックになる。モデルと撮影ポイントを探しながら半日も歩き回れば、翌日首や肩が悲鳴を上げる。少なくとも私は悲鳴を上げた。踏まえると、特にポートレートやスナップなどの作品撮りで、あらかじめ撮影場所や撮影イメージが頭にあると、より「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」のポテンシャルを引き出すことができる。そうして撮影したシーンは自分の想像を遥かに超える1枚となって映し出されるだろう。